SMテレクラのSMテレフォンセックスにハマるまえの趣味は、恥ずかしながら「コールセンターへのクレーム」でした。
平日の仕事が終わったあとの時間や休日などのまとまった余暇がくると、私は、手帳にびっしりとメモされた「クレーム先の電話番号」を選び、クレームのための電話をかけていました。
いま振り返ると最低の一言であるのだし、我ながら潔く死んだほうが世のため人のためと言わざるをえないのですが、コールセンターでつながったのが女性であったならば、果てしなくクレームを言い続けるということを私は「趣味」として楽しんでいたのです。
コールセンターで繋がったのが男性であった場合は「あ、間違い電話でした。すいません」といってかけなおしましたが、もちろん、ときおり、私の性欲が強くなりすぎたときは、コールセンターで働く女性だけでなく、男性に対しても向けられることがありました。
重要なのは、自分が責め手であり、相手が受け手であることでしたから、性欲が切羽詰まっていると性別は二の次になるのです。それほど、私の性欲と性癖は行き場を見失っていたということなのでしょう。
それにしても、コールセンターで働いている派遣社員の女性などは、はっきりいって、たまったものではなかったでしょう。
謝って許される話ではないということはわかっておりますが、モンスタークレーマーだったころの私が理不尽なクレームで長時間にわたって過激に苦しめて嗜虐趣味を楽しんだ相手に選ばれた女性に対して、ひとりひとり謝りたいという気持ちがあるほど、私のクレームは峻烈、陰湿、陋劣であり、ひたすら酸鼻を極めていたのです。
そもそも、私はそれほど怒っておりませんでした。クレームを入れる対象の商品などを消費者として一度も使ったことがないにも関わらず、ただただ「クレームを入れたい」という欲望を満たすためだけに電話をかけつづけていたのですから、まったく、悪質なモンスタークレーマーでした。
言われてもどうしようもないことを延々と言われつづける女性に欲情しつづけるモンスタークレーマーとしての私を見かねた友人が、SMテレクラというものと、SMテレフォンセックスという道を指し示してくれなかったら、私は、あのまま、「自分の性的衝動はクレームでしか満たされない」と勘違いしたまま、見も知らぬコールセンターの女性を苦しめるだけの悪徳を重ねていたに違いありません。
「お前はいますぐ『クレームのためのクレーム』を入れるのをやめろ。過剰性欲の矛先をコールセンターの女性に向けるという悪行をするお前のことを、おれは軽蔑するよ」という友人からの言葉は、コールセンターにクレームを入れながら陰茎を勃起させて「こんなことをしないと生きていけない自分はクソだ、生まれてきてはいけなかった」と自己嫌悪を強めてもいた私を冷静にさせ、自分の行動を見つめ直す契機を与えてくれました。
身勝手な話ですが、私もモンスタークレーマーであることに精神に限界をきたしていたのです。
ですから、私は友人にすすめられるままに、SMテレクラを利用しました。最初に使ったのは、サディストの男性用のSMテレクラでした。このSMテレクラは、モンスタークレーマーとしての私の特徴をよく知っている友人が「きっと、おまえの性癖にぴったりだろう」と選んでくれたのです。
私のスマートフォンを取り上げて右も左もわからない私のかわりに手際よくテキパキとSMテレクラへの登録をやってくれて、ラッキーコードの入力で無料ポイントもゲットしてくれた友人の献身には感謝しかありません。
その場でSMテレクラに電話をかけようとした私を友人は苦笑しながら見咎め、「おいおい、まさかおれの前でSMテレフォンセックスをプレイしようって魂胆じゃないだろうな?」といってSMテレフォンセックス開始数秒前といった前のめりの私を制止しました。
そして、SMテレフォンセックスというのはすさまじく変態的なプレイであり、そのプレイ中の自分のヴォイスパフォーマンスはとても他人に聞かれてはいけないようなものなのだから、どこか密室空間を見つけ出してそこで個人的にSMテレフォンセックスをしなければならないのだ、と親切に教えてくれました。
そのとき、私と友人は人で賑わうチェーンのファミリーレストランにおりましたから、友人の意見はもっともで、夕食を楽しむご家族や、学校帰りの女子高生たちのグループ、憧れのバンドマンにあってきたばかりのバンギャの群れ、一人でパソコンをいじりながら孤独な夕食を嗜んでいる独身男性などに聞こえるような大声でSMテレフォンセックスを開始しようとした私は本当に「バカ」だったのだと、SMテレフォンセックスの過激さを身にしみて理解している今現在の私の立場からならば笑いながら断言することができます。
さて、友人とわかれた私は、自室の布団にくるまりながら初めてのSMテレフォンセックスをプレイすることになったのですが、まったく、友人の慧眼が証明されるばかりの時間を過ごすことになったのでした。
マゾ奴隷女性とのSMテレフォンセックスを通して、私は、これまではモンスタークレーマーとしてコールセンターで働く女性を相手にして解消してきた性欲が、クレームをいれるときよりも十全に満たされていくのを実感していました。
SMテレフォンセックスをしているときの勃起やカウパーの分泌は、コールセンターにクレームを入れているときのそれとは比較にならないほど凄まじく、私は、SMテレクラの真性マゾ奴隷女性を相手にした調教プレイを通して、陰茎に手をふれないままに射精をしていたほどなのです。
一回目のSMテレフォンセックスを終えてノーハンド射精の余韻に包まれながら、私は「大変なものに出会ってしまった……」と呟いて天井を見つめていました。
それから、友人に電話をかけて、SMテレフォンセックスがいかに素晴らしいか、そして、この素晴らしい遊びが私にぴったりだと見抜いたことの友人の優れた眼力についてひとしきり褒め称えました。友人は、ともかく君がこれでモンスタークレーマーをやめてくれるならそれに越したことはないよ、何にせよ最高の射精があったようで良かった!ぜひともこれからも素敵なSMテレフォンセックスをプレイしたまえ!と私を激励してくれたものです。
友人への謝礼と報告の電話を切ってから、私は二回目のSMテレフォンセックスを楽しみました。一回目はあまりに射精が早く、責めの時間が短すぎたので、二回目は、かつてモンスタークレーマーだったときの自分がそうしたように「長時間の通話」を目標にして、持続する長い快楽を貪りました。
この二回目のSMテレフォンセックスがまた途方もなく素晴らしく、自分の手でする寸止め射精からのエクスタシーは、一回目と同じかそれ以上の体験を私に与えてくれたのでした。
この日を境に、私がモンスタークレーマーからSMテレフォンセックスプレイヤーに転向したのは言うまでもありません。はじめのうちは、マゾ豚女性を相手にしたSMテレフォンセックスで、強すぎる性欲をなだめていました。
ある程度SMテレフォンセックスに慣れてくると、SMテレクラのもう一面の顔であるところの「女王様」が無視できなくなってきました。友人に相談をすると、友人は「自分の可能性を広げるかもしれないことは、なんでもチャレンジしたほうがいい」というアドバイスをくれて、女王様とのSMテレフォンセックスをしようかどうか迷っている私の背中を押してくれました。
逡巡の日々が続き、いよいよ自分の意志では欲望に逆らえないというタイミングがきて、私は生まれてはじめて女王様専門のSMテレクラを利用することになりました。そして、私は、女王様によって言葉で責め立てられることの快楽で全身を貫かれ、SMテレフォンセックスの両面、陰陽のすべてを連続射精の快楽のなかで理解することになったのです。
女王様とのSMテレフォンセックスにおいては、モンスタークレーマー時代の私のことを話し、人として最低の行為を行っていたことを基点にした言葉責めによって人格を蹂躙してもらうことにハマりました。
これは、「自分の快楽を追い求めた性的行動」としてやっていることですから、もちろん決して「贖罪」にはならず、私がいくら女王様に人格を否定されたところで、私が当時モンスタークレーマーとして精神的に傷をつけたあらゆるコールセンターの女性に対する罪の意識はますます強くなっていくばかりなのですが、女王様に罵られながらモンスタークレーマー時代の自分を反省し涙と涎と精液を撒き散らしながら謝罪を繰り返し許しを乞う私の心に嘘偽りがないことだけは確かです。
それから、私は罪の意識からコールセンターに転職し、今度は顧客からのクレームを受ける側にまわりました。当時の私のようなモンスタークレーマーからのクレームを受けることもしばしばの日々です。
とはいえ、このモンスタークレーマーからのクレームは、私にとっては容易に乗り越えられる苦痛でしかありません。なぜなら、どれほど苦しいことがあっても私には退勤後のSMテレフォンセックスという至福が待ち構えており、あらゆる苦しみがSMテレフォンセックスの果てのエクスタシーによって取り除かれることになるのですから。