SMテレフォンセックスにおける寸止め射精管理はおそらく二時間近く続いていた。
いや、時間の感覚はすでに失われていたから、もっと短かったのかもしれないし、それよりもずっと長い時間射精管理されていたのかもしれない。
射精管理されつづけて汗だくになった私の体温上昇のように、連続通話によって充電器に差し込んだまま使用していたスマートフォンのバッテリーは発熱していた。
決して私に射精することを許してくれない女王様と回線が繋がってしまたがために、今月のSMテレフォンセックス代はとんでもないことになりそうだ。
むろん、射精管理とはいっても、私は女王様に逆らっていますぐにでも射精してしまうことはできた。あるいは、引き伸ばされすぎたSMテレフォンセックスによる課金を恐れて、電話回線を切断し、SMテレフォンセックスを強制終了することもできた。
それでも私がSMテレフォンセックスを決してやめなかったのは、かつてない領域に突入しつつあるSMテレフォンセックス、過去最長に延長された射精管理によってもたらされる頭がぐちゃぐちゃになりそうな終わらない快楽を手放すのが惜しくてならなかったからだ。
このSMテレフォンセックスによって破産してしまってもいい。それどころか、快楽の限界を超えて命を失ってもいいのではないか、なにより避けるべきことは、このSMテレフォンセックスを簡単にあっけなく終わらせてしまうことだ……
SMテレフォンセックスで回線が繋がった女王様は、言葉責めによって勃起し、陰茎をこすりあげる私の姿を、モニターで監視しているのだろうか。
私が射精しそうになると、イキそう、などとは一言も言ってないにもかかわらず、私が射精しそうになっているということを敏感に察知し、まだイッちゃだめよ、誰がイッていいって言ったの?といって、私の手を陰茎から声と言葉だけではねのけて縛りあげる。
SMテレフォンセックスの時間が長引いていくと、まるで、自分の手が自分の手ではなくなっていくような気がする。受話器の向こう側にいるテレクラ女王様の手が私の手に憑依して、私の自由意志を奪ってしまったかのように思えてくる。
あとほんの少しでもこすりあげれば射精をしてしまう、という、まさにその寸前で、女王様は陰茎をこすりあげる手をとめる命令を的確に放ってみせる。眼の前に私の陰茎があるかのように、テレクラ女王様は、声と言葉と呼吸のわずかなゆらぎに耳を傾けながら、私の陰茎を支配している。
人間離れした射精管理のまえに、だんだん「なぜ?!どのように?!」という疑問は薄れてどうでもよくなっていく。ただただちんぽが気持ちいい、射精したいけれど射精したくない、このまま果てしなくしごかれていたい(しごいているのは自分の手なのだが)という考えだけに染まっていく。
はじめは、通常のSMテレフォンセックスのように、対話があった。M男から女王様のあいだに立ちはだかる絶対的支配関係の空間を立ち上がらせていくような言葉があった。だが、射精管理につぐ射精管理のすえに、私の言葉はすっかり使い物にならなくなっていた。
脳を焦がす寸止めの快楽によって、私は意味のある言葉はもうほとんど発することができなくなっていた。私は涎を垂らしてアヘ顔になりながら情けないうめき声をあげて白眼をむく射精管理されるだけの肉塊になりつつあった。
そんな私の姿を見ることができないはずのテレクラ女王様は、知能指数を限界まで落とした私の最低のM男としての姿を直接その眼で見ているかのような罵倒を私に届ける。その一方的な罵倒は、また私の快楽中枢を刺激し、私は間断なく届けられる言葉責めを聞いていると、また射精しそうになる、が、射精することだけは決して許されない。
勃起したまま射精管理されながら、私はいちど小便を漏らしてしまった。勃起しつづけた陰茎に蓄積する尿意が限界を迎えたのだ。私は自分自身の小便を顔面に浴びた。私の部屋は巻き散らかされた小便で濡れてアンモニアの悪臭を放った。
くっさいくっさい変態勃起ちんぽ、おもらしちんぽ、奴隷ちんぽ。テレクラ女王様は私にそう告げたのではなかったか。しかし、どうして受話器越しのテレクラ女性が私の陰茎の臭いを知ることができたのだろう。確かに私の陰茎は、テレクラ女王様にくっさいちんぽと言われても仕方ない臭いを発していたのだが。
この射精管理はいつまで、どこまで続くのだろうか。私はこのまま射精できないまま息絶えることになるのだろうか。それとも、許された射精によってイキ果てることになるのだろうか。
卓越した射精管理能力によって私の陰茎を支配してきたテレクラ女王様のことである、射精管理をやめ、射精を許してくれたとしても、きっと、射精後の私の陰茎を簡単に解放してはくれないだろう。
射精後の私を待ち受けているのは、とまらないしごきによる男の潮吹きなのではないか。射精したばかりで敏感になっている陰茎をこすりつづけるのは私の手なのだが、それは私の意志ではなく、女王様の意志として動かされ続けるのだ。
そして、女性器のように潮を吹きまくる私の陰茎に爆笑しながら嬉々として罵るのだ。人格を全面的に否定される言葉を聞きながら、動かされ続ける私の手首。びしゃびしゃと吹き出し続ける男の潮。快楽絶頂を引き伸ばされた私の意識は明滅し、死の恐怖にただただ身悶えすることだけが許されている。
だが、いまはまだ射精管理の真っ只中にいる。解放の兆しはまるで見えない。