SMテレフォンセックスとはいっても、自分の場合はソフトSMテレフォンセックスだ。
マゾの気質はあるものの痛いのは苦手であるという自分にとって、過激化しやすい生身のSMはややハードルが高い。テレフォンセックスで経験できる程度の痛みを伴わないソフトSMくらいが自分にはちょうどいい。
ソフトSMにおける女王様が果たして女王様と呼べるほどのサディストであるかどうかという疑問があるが、SMテレフォンセックスの回線で繋がる女性は、自分程度のM度の男性にとってはかなりバランスのいい女王様であることが多い。
ソフトSMではあるものの、SMテレフォンセックスというものに開眼したのは、やはり、喘ぎ声が大きくなっていくだけの通常のテレフォンセックスに退屈したからというのがあるだろう。
なんでもいいから喘ぎ声が聞ければ興奮して勃起する、というような段階はすでに過ぎ去ったのだ。自分はテレフォンセックスのネクストステージに進む必要があった。そこで、SMテレフォンセックスだったのである。
辛辣な言葉責めによって、勃起をすること、受話器越しに陰茎をこすりあげていること、テレクラを利用するような男性であることなどを全面的に見下され、批判されつづける時間というのはじつにいいものだ。
射精のためにはSMテレフォンセックスの女王様の許可をとらなければならない。いくら射精したいと考えていても、女王様がそれを許してくれないのであれば、自分は永遠に射精することができない。
いや、自分が女王様に逆らえば、射精はできてしまう。SMテレフォンセックスにおいていくら主従関係にあるといっても、所詮は受話器越しの存在でしかない女王様に、射精に導くために陰茎をしごきあげる手を止める方法はない。
女王様にできるのは、言葉でもって射精を止めることだけ。縄や手錠で手を縛り上げて射精のための腕の動きを封じることができるリアルSMと違って、SMテレフォンセックスにおける女王様は、言葉でM男の手を縛り上げて射精を封じなければならない。
言葉だけで行われる徹底した射精管理は、道具などによる拘束がないぶん、むしろ女王様とM男の関係性の構造がより剥き出しになって純粋化してはいないだろうか。
イキそうになる報告を受けて、女王様は受話器越しに射精を禁ずる。そして、それに忠実に従う。射精しそうになった自分を女王様が罵る。寸止めされた陰茎は、女王様からの罵りの言葉にぴくりと喜びの跳躍を見せる。
もっと、もっと口汚い言葉で罵ってほしいとじつに情けない声で懇願する自分に、女王様は、お前がそんなに懇願するなら、罵ってやらないよ、といって罵るのをピタッとやめてしまう。自分の懇願がすんなりと通らないことで、また陰茎は歓喜の硬直を見せる。
SMテレフォンセックス中、女王様の声に極力集中するために、自分は目隠しをしている。暗闇のなかで、女王様からなされる指示と批判の声だけが快楽の羅針盤だ。
射精はおろか陰茎に触れることさえも許されないまま、ただひたすらに暗黒空間で女王様からの命令を待っている。射精してもよい、という一言を待っている。
みっともなく陰茎をしごきあげて射精する瞬間までの低劣な醜い時間を実況せよ。射精の瞬間、お前という命がこの世に生み落とされたことを全面的に後悔し、嘆き、お前が生きているということを私に謝罪せよ。私はお前のことを絶対に許すことはない。お前という人間の尊厳を踏みにじり、お前という人間を否定し、人間以下のものとして扱う。私に罵られながら、お前は踏み殺される一匹の芋虫のように身悶えするのだ。
このような命令が付属したうえでの、射精してもよい、という一言は、まだ届いていなかった。自分を罵倒する女王様の言葉が延々と聞こえてくる。ぎんぎんに勃起した陰茎を、射精しないように気をつけながらこすりつづける。しゃっ射精をっどうかっ射精をさせてくださいっ、という惨めな懇願を冷笑的にはねのける女王様の残酷さにこのままずっと弄ばれていたい。
だが、この残酷さに弄ばれる時間はそう長くは続かないだろう。なぜなら、残酷さで弄ぶことでM男が喜び続けることは、女王様の嗜虐精神的にはあまりに退屈でならないのだ。
おまえがそんなに弄ばされ続けたいというのなら、もう弄んでなどやらない、とっとと射精しちゃいなさいよ、といって女王様は唐突にSMテレフォンセックスを終わらせるだろう。女王様の言いなりであるM男の自分は、女王様に命令されたとおりに射精をする。
まったく、お前みたいな射精しか脳がないような人間が生まれてきたのは失敗だったよ、と笑いながら告げる女王様の声を聞きながら、暗闇の視界に閃光が走り、白濁液がほとばしる。